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コラム:建築を広げる 映画、演劇、アート、 建築を媒体とするコレクティブ 「ガラージュ」

建築、映画、演劇に関わる3人によって結成されたアーキテクト・コレクティブ ガラージュ。
早稲田大学建築学部学科の同期である小田切駿、瀬尾憲司、​​渡辺瑞穂帆により組織され、東京と兵庫県・豊岡市を拠点に「建築を広くデザインの問題へ接続する媒体と捉え、建築を中心に、映像/演劇/まちづくり/アートなど多岐にわたる分野の設計・制作に取り組む」ガラージュの活動に迫ります。

​​Q.最初に皆さんのバックグラウンドを教えてください。

瀬尾:僕は大学時代、鈴木了二研究室に所属していて、映画の研究を始めました。研究室に入るには、先生が提示するテーマの中で論文をどれにするかを選びその上で所属可否が決まるという流れだったので、あまり人が選ばなそうなテーマを選んだ方が受かる確率が高いのではという、そういうところが映画を始めた動機でした。
​​黒沢清という映画監督の研究を建築的な視点でする必要があり、当時公開された映画で入手できるものを全て見て図面を描くということを論文に書いたことが今の活動の根幹にあると感じています。気づいたら映像や映画を撮るようになっててそれが仕事になっていました。​​

渡辺:在学中から演劇やパフォーミングアーツのプロジェクトに参加していて、卒業後に入社したフジワラテッペイアーキテクツラボでもアートプロジェクトを担当する機会が多くありました。「場をつくる」という観点から、その手段として演劇や展覧会、建築設計を展開しています。また所属している劇団青年団が、豊岡に移転して劇場・大学・演劇祭をつくるということを聞き、街ぐるみで大規模に面白いことが起こるぞと予感して、4年前から豊岡に拠点を置いてます。

個人の範囲を超えて、自治体規模でのプロジェクトの可能性を感じました。当初は劇場や演劇祭の立ち上げに関わり、近隣の方々とイベントを開催したり、街のあらゆる空地・空家や、海や河川敷など野外の景観を演劇やパフォーマンスの舞台としてコーディネートをしたりしていました。最近はそこから、建築設計やまちづくりに発展してきています。

小田切:大学のときは古谷誠章研究室に所属しながら、SANAAでアルバイトをしていて、その流れでSANAAに入社し、国内の大きい現場を担当してきました。アイディアやコンセプトから実物になるまでのリアルな過程を長い時間経験できたと思っています。今後も現場で起こる出来事を大切にしながら、時間的な広がりを展開していきたいです。

​​活動のコンセプトを教えてください。
瀬尾:「時間」というのは我々の中で重要で、映画や演劇が建築と一番違うのは「時間的な動きをこれまで積極的に表現に取り入れてきたか」だと思っています。建築は竣工後のある一点、固定された姿を表現されることが多いですが、「建物がどう変化していくか」という点に着目して建築とそれを媒体するイメージを作っていきたいです。

小田切:出来た先で何が起こるかとか、建物がどのように経年変化していくかとか、その先も記録して付き合い続けていくことは大切だと思います。背景には日本の近代建築が劣化してきて、保存運動が活発に起こっている時代性もあり、建物のその後を考えることの重要性を感じています。
また、そういうことを仕事としてどうやって成立させるかという課題もあります。

現在は兵庫県・豊岡にも事務所を設けていらっしゃるとのことで、具体的に取り組んでいるプロジェクトについて伺いたいです。

渡辺:最近では「演劇学生のためのシェア芝居小屋ハウス」を設計しました。豊岡に2021年に開校した大学の演劇学生が住むためのシェアハウスの設計です。ひと学年80人で、一年生は全寮制で、二年生からは外に出るのですが、一人暮らし用の物件が足りない状態で、建設ラッシュが起きています。
ただ、街に空き家が多いこともあり、今あるものの中にどうやって面白く劇的なことを生み出せるかということをやりたいと考え、お施主さんや実際に住む学生たちと一緒に設計をしました。

「演劇学生のためのシェア芝居小屋ハウス」photo by Kenji Seo

演劇学生がシェアハウスに住むということで、学生たちとワークショップをしながら出てきた意見とガラージュの建築的な視点とが組み合わさり、さまざまな要素によってできました。

photo by Kenji Seo

具体的には、設計の過程で演劇学生たちとともにどうすれば面白く住めるのかを議論していきました。その中で、志の高い学生から「稽古がしたい」「地域の方々を呼び込めるようなしつらえにしたい」という意見が出てきたので、そういった意見を次々に実現していきました。
通常の住居設計では、快適に住むという観点が重要視されますが、今回の設計では芝居小屋としての機能が優先されたので、このプロジェクトならではの軸が設定できたと思っています。

photo by Kenji Seo

「演劇学生のためのシェア芝居小屋ハウス」photo by Kenji Seo

これからの目標などあれば教えてください。
渡辺:場をつくりながら、境界を曖昧に広げながらも、その上で芯を強く持つことを意識しています。建築、演劇、映像にできることを考えながら、より多分野の人と関わり、様々なプロジェクトを展開していきたいです。